今年の司法試験は5月15日からです。人生をかけた試験です。受験生は必死で勉強しているはずです。

司法試験は知識以上に文章力が試されます。設問についての基礎的な知識があれば、細かい学説等まで知らなくても合格点は取れます。問題は基礎的な知識から結論を導くための論理的な文章を書けるかどうかです。逆にいえば、知識が豊富でも論理的な文章を書けなければ容易には合格できません。

私には文才がありません。ですので、本を読んで学びました。私がお世話になった本は次のとおりです。

清水幾太郎「論文の書き方」(岩波新書)

本多勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞出版)

大野普「日本語練習帳」(岩波新書)

野矢茂樹「論理トレーニング」(産業図書)

ところで、「思うに」「けだし」といった古い判決文を真似て答案を書くのは愚かです。答案の形式にこだわるのもあまり意味がありません。判決書の形式を形だけ真似て、凸凹の答案を書いても読みやすくはなりません。

もう一つ、司法試験に合格するためには穏当な結論を導くセンスが必要です。私が受験した司法試験では「錯誤」の成否が出題されました。受験勉強で覚えた型通りの理屈と、試験を離れて考えた場合に導かれる結論が異なる問題でした。穏当な結論を導こうとすると、その結論を導く論理構成を試験中に編み出さなければなりません。私は迷いました。しかし、「わからないときは、常識的な結論が何かを考え、基本的な法律用語の正確な定義を起点に思考しよう。」と決めていました。私がどのような答案を書いたかはおわかりいただけると思います。

最後に、もう一つだけ書かせてください。政治学を学ぶと憲法が楽になります。憲法に苦戦する受験生が多いです。表面的な知識(法律用語や判例)を記憶するだけでは回答を導けないからだと思います。私が気になったのは「民主主義」を多数決と同視している受験生が多いことです。憲法の答案ではそのような浅い理解は求められていません。学部生のうちにトクヴィルの著作物ぐらいは読んでおくべきです。私は司法試験の考査委員をされている先生に「多数派の専制といった政治学の用語を使ってもよいのですか。」と尋ねたことがあります。先生の答えは「それでいい。」でした。

司法試験対策で学ぶことは法曹として必要な素養のごく一部です。弁護士は楽しい仕事です。司法試験に早く合格して、楽しく仕事をしながら素養を磨いていきましょう。

(丹波市 弁護士 馬場民生)