TBSテレビの日曜劇場「99.9」は面白かった。ドラマにはあまり興味がなかった私ですが、今回はすべて見ました。
ドラマですので現実の刑事弁護では考えにくいシーンもなかったわけではありません。ですが、今回のドラマは演出の範囲として許容できるものでした。最近は(黒を白にする)ひどい弁護士が主役のドラマが流行ったりしていたので、本当に迷惑でした。それだけに99.9は楽しく見られたのでしょうね。
「事実」と(依頼者の)「利益」という構図は、現実の刑事弁護でも直面する問題です。多くの弁護士は「事実」よりも「利益」を重視しているようです(統計があるわけではありません)。司法修習(弁護士になる前の研修期間)中に教官が「実は無罪だけど早く裁判を終わらせたいから認めにしてくださいと被告人に言われたらどうしますか。」と修習生に問いかけたところ、半数を優に超える数の修習生が被告人の言う通りにすると答えていました。教官から指名された某修習生は「被告人の利益になるからです。」と答えたのです。教官は「無罪主張に決まっている!」と怒っていました。
弁護士になってから、弁護士会の研修で修習生時代のエピソードを私が話したところ、年配の弁護士から「その教官は若いね~」と言われました。研修に参加していた弁護士の多くも(被告人の)「利益」を重視すると話されていた記憶があります。
「被告人の利益になる」と答えた某修習生は裁判官になりました。「彼はどうして裁判官になったのだろうか。」と私は今でも不思議に思っています。
逆に、あくまで無罪主張をしている被告人に対して、「証拠を見る限り有罪としか思えない。」とはっきり言うこともあります。今は亡くなった著名な刑事専門弁護士も事務所の若い弁護士に「そいつは絶対にやっているから吐かせろ。」と指示していました(伝聞です)。それでも被告人が「無罪」を主張するのであれば、弁護士は全力で無罪の弁護に努めます。証拠が100%事実を語るとは限りませんので、最後は被告人本人の言うことを信じるほかありません。
最後に、ドラマでは出てこなかったテーマを書かせてください。犯人の家族のことです。冤罪になった人の家族に同情するのは難しくありません。では、犯罪を犯した人の家族はどうでしょうか。家族も同罪でしょうか。私はそうは思いません。家族に罪はありません。それなのに、直接の被害者あるいはその家族でもないのに犯人の家族を非難したり不当な請求をする人間と出会ったことがあります。私はこのような人間が許せません。
刑事弁護は民事にはない難しさと悩みがあります。無罪判決をもらえるのは奇跡に近いです。しかし、無罪をとるだけが弁護士の仕事ではありません。情状弁護は刑事弁護の定番でとても重要です。時には犯人の家族を守るために奔走することもあります。
また夢中になって刑事ドラマを見たいです。無罪以外の観点からも面白い刑事ドラマを作成してもらえるとうれしいです。
(丹波市 弁護士 馬場民生)