相続人が相続放棄をされることがあります。「財産」放棄と言われる方が多いですが、法律上の用語としては「相続」放棄というのが正しいです。
相続放棄は簡易な手続です。戸籍等を揃えた上で裁判所へ2枚程度の書類を提出するだけです。法律の専門家でなくとも容易にできる手続です。
問題は被相続人(亡くなった人)名義の不動産がある場合です。この不動産は誰が管理をするのか。通常は相続人が管理をします。それでは、相続人全員が放棄した場合に誰が管理をするのか。
ネット上の情報をみていると、相続放棄をしても不動産の管理責任は、相続財産管理人が選任されない限り続くとの解説が散見されます。民法940条1項に、相続放棄後に、新たな相続人が管理を始めるまで「財産の管理を継続しなければならない」と書かれていることを根拠としているようです。
しかし、本当でしょうか。これでは最後に管理をしている相続人が、永遠に不動産の管理を続けなければならないことになります。もし家が倒壊して近隣に損害を生じさせたら相続放棄をしたにもかかわらず、その責任を負わないといけないのでしょうか。あまりに不当な帰結のように感じられます。
実は、「新注釈民法(19)」(有斐閣)664頁に次のように解説されています。
「学説は、本条の注意義務は、相続財産の価値の維持保全に向けられたものであり、第三者の権利利益に向けられたものではないため、この規定を直接の根拠にして、相続放棄者に第三者の被害に対する責任を追及するのは難しいとする」
この学説によれば、相続放棄をしても、不動産の管理を続けて近隣に迷惑をかけないようにしないといけない、などという見解は間違っていることになります。私はこの学説が常識的であり正しいと考えます。
(丹波市 弁護士 馬場民生)