成人になった子どもは、高齢になった父母を扶養しなければならない。民法877条の定めです。
では、子どもは自分の生活を犠牲にしてまで、親の生活を支えなければならないのか。さすがにそこまでの犠牲は子どもに求められてはいません。子どもの社会的地位にふさわしい生活を犠牲にすることなく、余力のある場合に扶養すれば足りるとされています。このような考え方を法律用語では「生活扶助義務」と言います。
現実の紛争では子どもが親にいくらのお金を送金すべきなのか、という形で問題になります。送金の具体的額(扶養料の額)について、法律雑誌「家庭の法と裁判」の最新版(1月号)に参考になる判例が掲載されていました。
札幌高等裁判所平成26年7月2日決定は次のように判断しています。
「扶養料の額は、母の必要とする平均的生活を維持するために必要である最低生活費から母の収入を差し引いた額を超えず、かつ、子どもの扶養余力の範囲内の金額とするのが相当である」(わかりやすくするため一部修正しています)
裁判所は、総務省統計局の家計調査報告から消費支出を決め、これに国民健康保険税や住民税、介護保険料、医療傷害保険の支出を合計した金額を、母が必要とする最低生活費(月18万7,897円)としました。この最低生活費から母の年金収入を控除した残額(月11万1,172円)を基礎とし、子どもの生活状況も考慮して、子どもから母への月11万円の送金を命じました。
「子は父母を扶養すべき」です。しかし、その内容は無制限ではなく、少なくとも裁判ではある程度の基準があるのです。
ちなみに、「家庭の法と裁判」の最新版には、内妻等の相続人以外の者が遺産を受け取れる特別縁故者(一定の条件があります)に関する判例が多く掲載されていました。家族のあり方の多様化を実感させられます。
(丹波市 弁護士 馬場民生)