成年後見人に就任すると、まず、本人(被後見人)が口座を持っている銀行(金融機関)に後見人の就任を届け出ます。届け出をすることで、成年後見人が口座取引をできるようになるだけではなく、本人のお金が無断で引き出されるのを防ぐこともできます。
銀行に後見人就任を届け出ると、その銀行の「レベル」(どの程度信用できるのか)がよくわかります。銀行によって成年後見人に対する対応が異なるからです。
成年後見人に就任したことを証明する書類として、裁判所の発行する審判書・同確定証明書のほか、法務局が発行する登記事項証明書があります。就任直後は法務局への登録が間に合わないため、就任直後に銀行に届け出する際に登記事項証明書を準備できません。審判書・同確定証明書のみで成年後見人に就任したことは証明できますので、本来であれば登記事項証明書は必要ありません(就任後3か月を超えた場合は別)。
ところが、審判書・同確定証明書に加えて登記事項証明書の提出を求める銀行が少なくありません。
成年後見人自身の身分証明書も必要です。弁護士の場合、弁護士会が発行する身分証明書があります。弁護士が後見人に就任する場合、通常、審判書に自宅住所は記載されていません。所属事務所の所在地のみが記載されます。ですので、所属事務所の所在地が記載されている弁護士会の身分証明書を提示すれば足りるはずです。
ところが、弁護士会の身分証明書に加えて(自宅住所の記載された)運転免許証の提示を求める銀行が少なくありません。
次に問題なのが、日常の取引に使う届出印です。弁護士には弁護士会に登録した実印があります。後見人就任の届出書に実印を押すのは理解できます。しかし、日頃の取引まで実印の使用を求められると困ります。実印は1つしかありませんから弁護士の業務に支障がでるのです。ですので、私は本人の認印(あるいは弁護士の認印)を届出印にしています。通常、銀行でお金の出し入れをする際に実印を使うことはありませんので当然のことです。
ところが、銀行によっては実印による取引を要求してきます。あるいは、認印による取引を認める条件として、「他人が印鑑を悪用しても文句を言いません。」などと書かれた誓約書への署名押印を求める銀行もあります。
成年後見人が取引できる支店の範囲にも銀行によって違いがあります。口座を開設した店舗が弁護士の所属事務所から遠い場合には、少しでも事務所に近い支店で取引をできなければ不便です。
すべての支店で取引できる銀行がある一方で、口座を開設した支店以外での取引を成年後見人に認めない銀行もあります。
以上を私(弁護士馬場)が成年後見人として後見人就任を届け出たことのある銀行で比べてみます。仮にA地方銀行、B信用金庫、C信用金庫、D都市銀行とします。
まず、A地方銀行は、審判書・同確定証明書に加えて登記事項証明書の提出を求めてきます。弁護士会の身分証明書に加えて運転免許証の提示も必要です。認印による取引は無条件で認めてくれます。口座を開設した支店以外に1店舗だけ成年後見人による取引ができます。
次に、B信用金庫です。審判書・同確定証明書に加えて登記事項証明書の提出を求めてきます(ただし、「後からの提出でも構いません」と言われます。しかも、後から登記事項証明書を提出しなくても何も言われません)。弁護士会の身分証明書に加えて運転免許証の提示も必要です。認印による取引は「他人が印鑑を悪用しても文句を言いません。」などと書かれた誓約書への署名押印を条件に認めてくれます(ただし、誓約書への署名押印を求められないときもあります)。口座を開設した支店以外に1店舗だけ成年後見人による取引ができます。
C信用金庫はひどいです。審判書・同確定証明書に加えて登記事項証明書の提出を求めてきます。弁護士会の身分証明書に加えて運転免許証の提示も必要です。認印による取引は絶対に認めません(実印を毎回持参させる!!)。口座を開設した支店以外で成年後見人は取引できません。
C信用金庫は、私が口座の差押えをしたときにも耳を疑うような対応をしていました。ほかにも複数の問題のある対応を私は経験しています。C信用金庫は全く信用できません。ですので、私はC信用金庫の口座をすべて解約する方針にしています。
D都市銀行は素晴らしいです。審判書・同確定証明書か登記事項証明書のいずれかを提出すれば足ります。弁護士会の身分証明書のみで問題ありません。認印での取引も無条件にできます。口座を開設した支店以外でも成年後見人は取引できます。しかも、全国すべての店舗で成年後見人は取引できるのです。
成年後見制度の利用が呼びかけられています。成年後見制度が普及するためには、銀行(金融機関)の理解と適切な対応が必須だと私は日々の業務で実感しています。
(丹波市 弁護士 馬場民生)